障害のある方へ自立支援、豊かな生活を。社会課題にも向き合う『社会福祉法人 宮共生会』

(この記事は2022/10/23に開催された「いとなみ研究室」主催の公開取材をもとに編集しています。)

社会福祉法人 宮共生会』は、2001年に社会福祉法人としての認可を受けて設立。障害のある方やそれを取り巻く家族に寄り添い、自立支援を中心に活動している。具体的には、障害のある方の雇用、就業支援、生活支援など、障害当事者の社会参加に向けた包括的なサービスを提供している。この日は「第1回 ひとこと講座 -公開取材とローカル編集-」のゲストとして、理事長の原田良太さんに公開取材を行なった。

宮共生会の歩み

法人を立ち上げることを決めたのは、当時佐世保市の職員であり、福祉審議会の委員でもあった原田さんの父親である。障害を持つ方の生活状況や、その家族の現状を聞くことが多くあった父は、退職のタイミングで社会福祉法人を立ち上げることに意欲があった。そんななか、「立ち上げを手伝わないか」と、原田さんは問われる。「だったら俺が手伝おうかな」と、半ば軽い気持ちで受け入れたことが、彼の福祉の道への歩みをスタートさせることとなった。

現在は13の事業所で、16の事業を行なっている宮共生会。職員は約180名。障害当事者の工賃を作り出すために売り上げは重要な要素だが、2019年に1億1300万を売り上げている。提供しているサービスは事業所ごとに異なり、就労継続支援のA型、B型、就労移行支援、生活介護、相談支援など、多岐にわたる。一番初めは2002年に『わらびの里』という事業所を開設し、知的障害のある方の働く場所づくりを提供するというところからスタートした。わらびの里では、米や野菜の生産・管理作業や、地域からの除草、野菜の収穫などといった委託作業などを行なっている。佐世保市の展海峰では、毎年菜の花やコスモスが綺麗に咲くが、その植え替え等もチームわらびの里の活動によるものだ。

原田「最初は農業を主体に実施しました。近隣に事業所が少ないという相談をいろいろな方からいただくなか、当時は定員を増やすというのはすごく難しかったので、小規模作業所のような形で簡単にできる作業所をつくりました。具体的に何をやっていたかというと、農福連携です。例えば、みかんの木の下にビニールを張っていく際に、農家さんの反対に立って押さえておく仕事。米農家で除草作業をするときに、農薬散布用の筒を持つ仕事。宮地区で生育がさかんな電照菊の伐根処理という仕事もありました」。

障害の軽重に関わらず、障害を持った方の日中の活動を保証するという理念で開始した活動。そのなかで就労支援の難しさに直面し、始めた事業もある。

原田「現在、生活介護事業もやっています。限られた人数を支援させていただくなかで、畑の整備中、みんなが草むしりをしているときに、重度の障害がある方が、畑の縁でパイプ椅子に座って『お母さん来るよ』っていうのを連呼しているだけという状況があって。障害を持った方々の工賃を稼ぎ出していくというなかで、仕事も進めなければならないし、売り上げも作り出さないといけない。一方で、福祉的な支援もしなければならない。重度の障害のある方にとって、通える場所があるのはいいのですが、支援者が一緒に畑に行って、いろいろな手順を教えれば必ず成長していくのに、それがなかなかできずにモヤモヤしていました。ここが就労支援の難しいところだと思います」。

そこで、当時は障害者デイという、現在の生活介護事業に変化してきたサービスがあったが、その前身になるものを立ち上げる。重い障害のある方はそこに通い、指先の訓練やバスの乗車体験などを実施した。それを始めとして、現在、生活介護事業所は3つになった。中重度程度の障害のある方が通える『しおさい』や、医療的ケアが必要な方が通うことができる『みらいと』など、個人の障害や心身の状況に応じたサービスを提供している。生活介護事業は就労系の事業より配置できる職員が多く、比較的手厚く支援ができるという事業所になっている。

売り上げを伸ばすために

このような活動を経て、2006年までで売り上げは500万円まで伸びた。ここから、さらに売り上げを伸ばしていくためにどのようなことを行なってきたのか。

原田「もっと売り上げを伸ばすために、付加価値を付けて物を売ろうということをしました。もともとわらびの里で、1キロのキャベツを一個120円で地元の生産者市場に卸していたんです。ある日スーパーに行くと、150グラム入った千切りキャベツが100円で売っていました。うちのキャベツで、6、7袋作れる。今まで120円で売っていたキャベツを二次加工して付加価値を加えることで、数倍の金額に変えることができるのではないかと考えました」。

売り上げを伸ばし、障害のある方の工賃を増やす取り組みに切り替え、ここからさまざまな事業が展開されていく。

原田「カット野菜をしようと思ったんですが、いろいろあってお弁当作りをしています。2006年に弁当工場を作って、2007年には作った弁当を売る場所が必要だということで店舗を作りました。この2年で約3000万まで売り上げが伸びています。翌年、佐世保市の展海峰の管理をやらないかとお声かけいただいて、農業部門が管理をしています。このような活動で2010年には5200万まで売り上げを伸ばすことができました」。

このように、様々な事業を展開していくなかで障害当事者のニーズに応えることもあった。

『久遠チョコレート』。公開取材当日には、現地に出席した人たちに配られた。

原田「2012年に障害当事者のなかに、接客をしたい、お菓子を作ってみたいといったニーズがあったので、それができる場所として、『カフェ・ハーベストキッチン』を作りました。2016年には、カフェと親和性の高いコーヒーの自家焙煎場をつくって、一階に店舗を構え、『久遠チョコレート』という、愛知県豊橋市にある一般社団法人 ラ・バルカグループがフランチャイズしている事業所の、佐世保ブランチという形をとっています。また、宮地区の饅頭屋さんが、かんころもちの原料のさつまいもの干し芋の納入が、高齢化のあおりを受けてできなくなってきたという相談をもらって、農業部門でサツマイモを作って、加工部門で干し芋にして、それを饅頭屋さんに卸すという仕事も行っています」。

福祉的支援と就労支援のバランス

このような活動によって、2019年には1億1300万円を売り上げた。近年はコロナの影響を受け、1億500万円まで減収してしまったものの、十分な売り上げに見える。しかし、平均工賃を伸ばしきれていないといった社会課題を解決していくには、これ以上に売り上げを伸ばす必要がある。今後はどのような動きをしていくのだろうか。

原田「一次産業、二次産業、三次産業を全てやっているので、六次産業化モデルに近いところがやれていると思います。この仕組みを詰めていきたいです。極限までロスをなくしていく取り組みで売り上げを伸ばしていきたい。現在、うちの法人の平均工賃は19000円くらいです。工賃に関する社会課題は、事業所だけを責めることはできないと思っていて、一般企業で雇用されることが難しい方が通ってきているので、大体の方に福祉的な支援が必要です。その前提があることを考えなくちゃいけない。一方で就労支援も必要。車の両輪のようなイメージを持つべきだと思っていて、両方がバランスの良い大きさじゃないとダメなんです。つまり、福祉的支援が必要だから低い工賃でいいわけではない。現在、目標工賃を平均で5万円まで上げたいと考えていて、いくら売り上げればいいかを算出すると、2億円でした。なので今、2億円に向けて頑張っているというところです」。

明確に目標を持った宮共生会が、今後どのような事業を展開し、地域との活動の幅を広げていくのか。
宮共生会の活動には今後も注目していきたい。

公開取材の様子はこちらから。

「ひと」の記事につきましては、以下をご覧ください。

「こと」の記事につきましては、以下をご覧ください。

店 名
社会福祉法人 宮共生会
所在地

長崎県佐世保市早岐1丁目6番43号(Google Map)

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TEL
0956-39-0115