
今回取材にご協力いただいたのは、ガラスの卸業とベーカリーという異色の業種を営む株式会社タシロの田代倫太郎さん。
佐世保市下京町出身の田代さんは、今年で創業110年を迎えるこの会社で取締役を務めている。
高校時代は県外に出て寮生活を経験し、その後東京の大学へ進学した田代さん。今回の取材を通して、田代さんの優しい人柄と内に秘めている会社への想いが感じられた。
早岐の町のパン屋さん?

太陽の光でキラキラと輝くガラス張りの建物、そこには大きく「REFORM TASHIRO」、そして隣には「BAKERY TASHIRO」の文字が見える。出来立てで美味しいパンを提供し、地域の人々からも“パン屋のタシロさん”として親しまれている。
実はここ、本業はガラス屋さんで、主に住宅に使われるサッシやガラスの卸業、そして住宅リフォーム事業などを行っている。
地域に根差した会社でありたいという想い、そして地域の皆さまと触れ合い、タシロで行っているガラスに関する仕事を認知してもらうために、平成30年にベーカリーのお店をオープンした。
「お客様からもパン屋のタシロさん、と本業のガラスよりもそう言っていただけるくらい少しずつ、早岐の町に根ざしてくることができているのかなと思います」

真剣に取材に向き合って下さる田代さんは、現在この会社で取締役を務めている。会社の事業計画の作成や一般のお客さんの対応、採用に関することや面接の説明会、そして取引先メーカーとの打ち合わせなど、会社全般に関わる業務を行っている。
取材に対する姿勢からも、普段の田代さんの丁寧な仕事ぶりがうかがえた。
ガラス屋さん4代目になる

「うちはガラス屋さん、っていう印象だけはあったけど、父がどういう仕事をしているのかっていうのはあまりわかっていなかったです」
そう話していた田代さんは、小学生でスイミングとソフトボール、中学校ではバレーボール、そして高校ではひたすら勉強を頑張っていたそうだ。父の勧めで高校進学を機に地元を離れて寮生活、卒業後は東京の大学に進学したという。
「小学生の時の作文に、ガラス屋さん4代目になるって書いていました。地元に戻って家業を継ぐって」
私が一番興味を惹かれたこの言葉、小学生ながらにそう感じていた田代さんの父親思いな一面に、心が温かくなった。特に熱中することがなかったと話していた田代さんだが、高校時代に建築関係の雑誌を読んでいたというエピソードからも、家業に対する田代さんなりの思いを感じられた。

家業を継ぐことを幼いころから考えていた田代さんは、高校生に上がる前にこの会社でアルバイトをしていた。
「実感はわきましたね。ここで長年勤めてくださっている方の名前はもちろん、顔もわかるんです。実際に仕事をするようになった時に、長くうちに勤めて会社を支えてくださる方もいたんだな、と」
田代さんが発する言葉からは、社員の方々へ感謝の気持ちと思いやりが伝わってくる。
先代から受け取った“歴史と意志”のバトン

小学生の頃の作文や学生時代のアルバイトを通して、家業を継ぐことを“なんとなく”考えていたと話す田代さん。
一度地元を離れて、タシロという会社を継ぐために早岐という町に戻ってきた田代さんが経験した最初のターニングポイントは、会社に入って間もない時だったそうだ。
「大学を出て戻ってきて割とすぐに、事業継承者の研修に行って勉強をして来い、と派遣されました。実際に会社に入って歴史などを調べる中で、先代が苦労して繋いできてくれたんだと実感しました」

会社の歴史を自分で調べて振り返り、社長である父や社員の方にも話を聞いたというエピソードからは、田代さんの仕事に対する堅実さを感じる。
取締役として会社全般に関わる業務を行う田代さんは、経営という部分でも会社のことをよく考えているのだと感じる場面が見られた。
「自分が目標を立てて行動していくと周りの社員も成長していくんです。いろんな失敗があるけど同じ目標に向かって成長していくんだなとしみじみと感じます」
人生のターニングポイントを、仕事をする中で感じていた田代さん。先代たちが繋いできた会社の歴史とバトンを自分がしっかりと受け継ぐ、そんな意志を感じられるお話だった。
タシロの3つのキーワード

これまでのお話で、会社について、そしてここで働く社員の方々についてたくさんの想いを聞かせてくれた田代さんが日々心掛けているのは、タシロの社是でもある「挑戦・信用信頼・大家族主義」である。
この三つの社是は、田代現社長が掲げられたものだそうだ。
「やっぱり企業っていうのは、社会の困りごと解決というのが一つの存在理由だと思います。今までのいろんなことを続けるだけじゃなく、挑戦しながら今やっていることを変化させたいです」

ガラス屋を本業としながらベーカリーも営む現在のタシロ。実は初代社長がこの会社を作り上げた当初、飲食店に家具屋、そして旅館など様々な事業を営んでいたそうだ。何事にも挑戦する創業者の想いもしっかりと受け継がれている。
「それぞれプライベートな部分は大事だけど、お互いに支えあえるような会社でありたいです」
人生の大半を過ごすことになる職場の環境や雰囲気をよくしたい、そういう思いから掲げられているのが社是の三つめでもある大家族主義だ。社員の方への思いやりが、ここでも感じられた。
新たな挑戦

タシロという会社に対してここまで様々な気持ちを語ってくれた田代さん。今後どのようなことをやっていきたいかという質問にも会社に対しての想いや熱意を感じた。
「実は、うちの会社は福岡の糸島にも拠点を構えていて、そこをどう活かしていくか、自分の代で成功させていきたいです。そして個人的には事業承継も成功させたいと思っています」
糸島の拠点だけでなく、この早岐という町にもプラスアルファでなにか出来ることを探しながらやっていきたいと、今後の意気込みを語ってくれた。
「ずっと勧められていたゴルフをようやく去年から始めたから、少しずつ上手くなりたいなと思っています」
これは完全に余談だが、インタビューの最後、少し照れ臭そうにゴルフについて話していた田代さん。仕事に対して真面目に誠実に考える一面と、少し茶目っ気を感じるその一言に、こちらも思わず笑みがこぼれた。

タシロという会社に対しての想い、先代から受け継いだものを大切に思う心、そして社員の方に対しても低い姿勢で行う気遣いと感謝。
取材を通して見えてきたのは、田代さんの仕事に対する堅実さと、地域や人を思うことを忘れない優しい人柄だった。